2026/05/09
芸術やファッションは、本当に「無駄」なのか?
感性・感情・美意識は、『知性』ではないのだろうか?
実は、社会は『感情を扱う仕事』によって支えられている、見逃せない事実のひとつとして。
皆さま、こんにちは。
トータルバランス美容プランナーの小原 木聖です。
先日、話題の映画『プラダを着た悪魔・2』を観てきました。
前作から約20年。
映画の内容そのものだけではなく、会場に多くの若い世代が集まり、ファッションや表現、働き方に強い関心を寄せている様子が、とても印象的でした。
一方、現代社会では「タイパ(タイムパフォーマンス)」や「コスパ(コストパフォーマンス)」が重視され、「効率」が価値基準になりつつあります。
そのような流れの中で、芸術、アート、ファッション、美容、あるいは感情に寄り添う仕事は、「生産性が低い」「なくても困らないもの」と見なされる場面も増えました。
こちらの映画の中でも、あのミランダがタイパやコスパを意識する場面が見られました。
20年前とは違う新たなテーマが、確実に存在していました。
しかし、タイパやコスパが低いものは、本当にムダだと判断して良いのでしょうか?
近年、教育学や心理学、脳科学の分野では、「知能=論理性だけではない」という考え方が広がっています。
たとえば、教育心理学者 ハワード・ガードナー が提唱した「多重知能理論(Multiple Intelligences)」では、人間の知性は単一ではなく、
・論理数学的知能
・言語的知能
・身体感覚的知能
・音楽的知能
・対人的知能
・内省的知能
など、多面的に存在するとされています。
つまり、「人の気持ちを察する力」や、「美しさを感じ取る力」、「空気感を読み、場を整える力」も、人間に備わった重要な知性だということです。
実際、社会は『感情を扱う仕事』によって支えられています。
社会学者 アーリー・ホックシールド は、こうした仕事を「感情労働(Emotional Labor)」と表現しました。
接客、介護、看護、教育、美容、カウンセリング。
これらの仕事では、単に技術を提供するだけではなく、「安心感」「信頼感」「心地良さ」を生み出す能力が求められます。
つまり、感情を整える力そのものが、社会的価値を持っているのです。
しかし、この分野は数字化しにくいため、しばしば過小評価されます。
たとえば、私の職種のひとつである美容室で髪を整える行為は、単なる外見調整ではありません。
「明日も頑張ろう」
「人に会いたくなった」
「久しぶりに笑えた」
そのような心理的変化が起こることは少なくありません。
また、認知症研究や脳科学の分野でも、「感情」「記憶」「感性」の結びつきが注目されています。
脳科学者の恩蔵絢子さんなども、人間の感情や共感性が脳機能や行動に深く影響することを発信されています。
認知症の方が、好きだった音楽や香り、美しい服装によって穏やかな表情を取り戻すこともあります。
つまり、人間は合理性だけは動いていないといえるのではないでしょうか?
感情や感性は、単なる贅沢品ではなく、人間らしさそのものに関わる機能なのではないでしょうか。
恩蔵絢子さんは、さらに、ご自身の介護経験を通じて、「人は合理性だけでは生きていない」ということも発信されています。
認知症の方は、記憶や判断力が低下しても、感情そのものが消えるわけではないそうです。
誰かに優しく触れられた記憶。
安心した空気感。
好きだった音楽。
お気に入りの服や香り。
そうした感覚的な記憶は、深い部分に残り続けることがあります。
ちなみに、認知症専門医の長谷川嘉哉先生の著書『ボケ日和』でも、「認知症=何も分からなくなる」という単純な話ではないことが語られています。
記憶が曖昧になっても、感情や雰囲気、人との関係性は深く残り続ける。
だからこそ、優しい声掛けや安心感、美しいものに触れる時間が、人の心を支える力になるのかもしれません。
効率だけでは測れない感情の知性を、改めて考えさせられます。
さらに興味深いのは、近年のAIやロボティクスの世界でも、「完璧さ」より『人間らしいズレ』が重要視され始めていることです。
たとえば、コミュニケーションロボットの LOVOT は、あえて少し反応が遅れたり、予想通りに動かなかったりするよう設計されています。
もし機械が常に完璧で、合理的で、寸分の狂いもなく反応したら、人間は逆に怖さや冷たさを感じてしまうでしょう。
しかし、少し不器用で、少しズレがあり、どこか未完成さがあると、人はそこに感情移入し、「可愛い」「愛着が湧く」と感じるのです。
これは非常に象徴的だと思います。
つまり、人間は本能的に、効率だけでは心が動かない。
むしろ、余白や曖昧さ、不完全さの中に、安心感や温かみを感じているのではないでしょうか。
それは芸術も同じです。
絵画。
音楽。
ファッション。
美容。
建築。
香り。
空気感。
それらは、単に機能を満たすためだけのものではありません。
「この人らしい」
「なんだか好き」
「安心する」
「また会いたい」
そうした、『数値化できない感覚』を生み出しています。
AIが進化し、効率化が進む時代だからこそ、逆に人間に求められるのは、
「何を感じるか」
「どう共感するか」
「どう美しさを見出すか」
なのかもしれません。
数字だけでは測れない価値。
空気を整える力。
人の心を回復させる感覚。
それらは決して無駄ではなく、これからの社会でますます重要になる知性なのではないかと、私は感じています。