2026/08/20
嬉しかったこと、楽しかったこと、怖かったこと、傷ついたこと、他、
ー感情が大きく動いた経験は、私たちはもちろんのこと認知症の方の中にも残りやすくなると言われています。
皆さま、こんにちは。
トータルバランス美容プランナーの小原 木聖です。
最近、父の介護を通して、私は「感情」というものについて改めて考えるようになりました。
認知症が進んだ父は、少し前に話したことを忘れてしまいます。
今日が何日なのか。
ここがどこなのか。
今、何をしようとしていたのか。
そんな「出来事の記憶」は、少しずつ曖昧になっていきます。
ところが、不思議なことがあります。
出来事そのものは忘れていても、「安心した」「嬉しかった」「怖かった」「寂しかった」という感情は、思っている以上にその人の中に残っているように感じるのです。
これは認知症の人だけの話ではありません。
実は私たちの日常にも、とても大切なヒントが隠されているのではないでしょうか。
認知症に加えて骨折をし、現在は全介助となってしまった父は、現在約4か月病院生活となりました。
先日、父を2泊3日で自宅へ連れて帰った時に親戚や家族が集まりました。
久しぶりに会った人の名前や、その日の出来事を、父がどこまで覚えていたのかはわかりません。
けれど、昔から好きな洋楽やクラッシック音楽を耳元で流していたら、「テネシーワルツ」やベートーヴェンの「第九」にはしっかり反応しました。
また、アロマオイルなどでハンドマッサージをすると、硬く握られていた手が少しずつ緩んでいくこともあります。
そして私が話しかけると、自分の好きなことには表情が大きく変わったり、笑ったり、冗談を言ったりすることがあります。
そんな父を見ていると、「覚えている」ということは、言葉で説明できる記憶だけではないのかもしれない。
そう思うようになりました。
このことを考える上で、とても興味深いのが、脳科学者・恩蔵絢子さんの研究です。
恩蔵さんは、人間の「感情」と「自意識」を専門とする脳科学者です。
そして、ご自身のお母様がアルツハイマー型認知症と診断されてから、娘として介護をしながら、脳科学者として認知症と「その人らしさ」について考え続けてきました。
恩蔵さんは、認知症が重度になっても、感情が単純に失われてしまうわけではなく、その人らしい感情や他者への思いが豊かに存在することを指摘しています。
また、脳では「記憶」と「感情」は別々に存在しているのではなく、深く影響し合っています。
記憶に重要な役割を持つ「海馬」と、感情に深く関係する「扁桃体」。
私たちは何かを経験したとき、単に出来事を記録しているのではありません。
「これは嬉しい」
「これは怖い」
「これは大切」
という感情の働きが加わることで、その経験の重要性が脳に伝わり、記憶にも影響します。
だからこそ、強い感情を伴った出来事は、何でもない出来事より記憶に残りやすいのです。
これは、良い感情だけではありません。
嬉しかったことも。
楽しかったことも。
怖かったことも。
傷ついたことも。
感情が大きく動いた経験は、私たちの中に残りやすくなります。
父が認知症になってから、私は何度も「正しいことを説明しても意味がない」場面に出会いました。
例えば父が、「仕事に行かなければならない」と思い込んでいるとします。
そこで、
「お父さんはもう仕事をしていないよ」
「今日は会社に行く日じゃないよ」
ーと事実を説明しても、父の不安がなくなるとは限りません。
むしろ「自分は間違っている」と否定されたように感じ、不安が強くなることもあります。
そんなとき私は、
「じゃあ、私が会社の人に伝えておくから大丈夫だよ」
と言うことがありました。
すると父は、
「じゃあ、任せた」
と言って安心する。
現実を訂正することよりも、父が今感じている不安を受け止めることの方が大切だったのだと思います。
これは心理学でいう「感情を否定せず受け止める」という考え方にも通じます。
そして、これは認知症の人だけに必要なことなのでしょうか。
私たちは、自分ではかなり理性的に生きているつもりです。
でも実際には、
「あの人に言われた一言がずっと引っかかっている」
「なぜかわからないけれど、あの場所に行くと安心する」
「あのお店に行くと元気になる」
「この人と話すとホッとする」
ということがあります。
何を話したのか細かく覚えていなくても、
「この人といると安心する」
という感覚だけが残ることもあります。
反対に、言われた言葉そのものは忘れているのに、
「なんとなく、この人には会いたくない」
という感覚が残ることもあります。
感情は、それほど私たちの人間関係や行動に影響しています。
だから私は、「感情をなくす」「感情に振り回されない人になる」ことだけを目指さなくてもいいのではないかと思っています。
大切なのは、
自分の感情に気づき、それをどう扱うか。
なのではないでしょうか。
怒り、不安、悲しみ、嫉妬、寂しさ。
私たちは、こうした感情を「良くないもの」と考えがちです。
特に大人になると、
「こんなことで怒ってはいけない」
「もっと前向きにならなくては」
「悲しんでいても仕方がない」
と、自分の感情を頭で押さえ込もうとします。
でも、感情にはそれぞれ役割があります。
怒りの奥には、「私は傷ついた」「これは大切にしてほしい」という気持ちがあるかもしれない。
不安は、「危険ではないだろうか」と自分を守ろうとしているのかもしれない。
寂しさは、「私はこの人とつながっていたい」という気持ちの裏返しかもしれません。
そう考えると、感情は私たちを困らせるだけの存在ではありません。
自分にとって何が大切なのかを教えてくれるサインでもあるのです。
だから、感情が湧いた瞬間に、
「こんなことを思ってはいけない」
と否定するのではなく、
「私は今、どうしてこんな気持ちになっているんだろう?」
と、一度眺めてみる。
それだけでも、感情との付き合い方は少し変わってきます。
私は長年、美容の仕事をしてきました。
美容というとー
髪をきれいにする。
肌を整える。
痩せる。
若々しく見せる。
そんな「外見を変えること」を思い浮かべる人が多いと思います。
もちろん、それも美容です。
でも私は、4万人以上のお客様と接してきて、美容にはもう一つ大切な役割があると感じています。
髪を整えてもらった。
肌に触れてもらった。
自分の話を聞いてもらった。
「きれいになりましたね」と言ってもらった。
鏡を見たら、少し嬉しくなった。
そのとき人の中に生まれる、
「気持ちいい」
「嬉しい」
「安心した」
「自分を少し好きになれた」
という感情。
もしかすると美容の価値は、見た目の変化だけではなく、その人の中にどんな感情を生み出すことができるのかにもあるのではないでしょうか。
だから私は、美容と心理は切り離せないと思っています。
認知症になった父を見ながら、私は人との関わり方について、もう一度教えてもらっている気がします。
人は、すべてを覚えてはいません。
私たちだって、10年前に誰とどんな会話をしたのか、そのほとんどを忘れています。
それでも、
「あの人には助けてもらった」
「あの場所では安心できた」
「あの頃は楽しかった」
という感覚が残っていることがあります。
だとしたら、
人との関係で大切なのは、「私は何をしてあげたか」だけではなく、「相手の中にどんな感情を残したか」なのかもしれません。
そして、それは自分自身に対しても同じです。
今日一日、自分を責め続けるのか。
小さなことでも、「今日はよく頑張った」と自分に声をかけるのか。
好きな香りを使う。
髪を整える。
お風呂にゆっくり入る。
誰かと笑う。
大切な人に触れる。
そんな小さな行動によって、自分の中に「心地よい感情」を少しずつ増やしていく。
それも、感情の上手な使い方だと私は思っています。
父は、今日の出来事を明日には忘れてしまうかもしれません。
私と何を話したのかも、覚えていないかもしれません。
それでも、
「なんとなく安心した」
「なんとなく嬉しかった」
「今日はなんだか心地よかった」
そんな感覚が父の中に少しでも残ってくれたらいい。
そして私自身も、悲しみや寂しさを無理に消そうとせず、その感情も含めて父との残された時間を過ごしていきたいと思っています。
感情は、私たちを振り回す厄介なものではなく、自分が何を大切にしているのかを知らせてくれるもの。
認知症になった父から、私は今、そんなことを教えてもらっています。
そしてそれは、「心・身体・美容」を一つのものとして考えてきたTBBメソッドにとっても、とても大切なテーマなのだと思います。
これからの時代は、「脳・神経・心・身体」を一つのつながりとして捉えることが、より健やかで自然な美しさにつながるのではないでしょうか。
TBBオンライン育成スクールでは、この「内側から育てる美容」という考え方をもとに、心理学や脳科学の視点も取り入れながら、美容をより深く学べるプログラムをお届けしています。
より深く学びたいという方は、ぜひご覧くださいませ。
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・恩蔵絢子『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社)
・恩蔵絢子「認知症のある人の感情の豊かさについて」
・恩蔵絢子ほか “Richness of emotion in people with dementia,” *BioSystems*, 2025.
・小野武年・西条寿夫「情動と記憶のメカニズム」